ぶらぶら。三条

友人曰く、「東京2020オフィシャルショップ」というものがあるらしい。私はスポーツというものに「複雑な感情」を抱いている側の人間で、ことオリンピックに関しては左寄りなのもあって常々疎ましく思っている。それを今更また東京でやるというのでいよいよ嫌になっていたところ、中止(中止だ中止)の報が入ったのでオンラインショップなど眺めてほくほくしていた。これが実店舗であるというのだからどんな顔をしているのか拝みにいかない手はない。ちょうどオンラインショップは在庫切れになっていたところだ。

聞いた翌日には友人と、京都丸善にある店を訪ねた。エスカレーターを下ると確かにフロアの隅っこにある。丸善には先日行ったばかりなのに、前来たときは気が付かなかった。

店中浮かれた「2020」の文字が並んでいたが、現にその全てに全く意味がなく、数か月もすればそのほとんどが不良在庫になるのだと思うと寒気さえした。二人は店の商品を一つひとつじっくり眺めた後、Tシャツを買ってサンマルクカフェに入った。

友人は戦後の住宅事情や人口の移動に関心を寄せている。廃墟になりかけた団地などにも出かけているらしい。人の移動と言えば、最近旅した北海道は正に人の流入出に翻弄された土地と言ってよく、気になるところだ。彼はいくつか面白そうな場所を教えてくれて、同行する約束もした。

「そういえば、ちょうど近くにもいいところがありますよ」

聞けば三条の目抜き通りを少し行ったところに「改良住宅」というものがあるらしい。同和対策事業として整備された団地だそうだ。団地を回っているとよく目にするらしく、派生的にそちらにも詳しくなったということだ。

鴨川から「土下座象」を通って2ブロックほど行ったところを右に、花見小路通りを進むと古びた集合住宅が見えてくる。前に居住者の名前を書いた看板が立っていて、皆お年を召していそうな名前だ。建物は時代を感じさせるものが多く、聞けば高齢化が進んでいるらしい。しばらく散策させていただいたあと、川端通り沿いのバスターミナルの方に戻った。

左手には大和大路通りが見える。三条から祇園に行くときに通ったことのある道で、古道具屋が多い。少し奥に進めばさっきの場所なのになぜ気が付かなかったんだ。駐車場を横目に三条の方に戻る。そういえば、京都の町の真ん中にこんな大きな駐車場があるのも妙な話だ。三条大橋の向こうに続く繁華街を確かめて、後ろを振り返る。団地がある。7年間も京都に住んで、目には入っていたはずの団地だ。しかし、認識できていなかった。

連れに衝撃を伝えると、「『中心』が、見えないよう巧妙に作ったんですよ」と答えた。私はまるで知識がないので実際のところが分からない。ただ、あまりに驚いてそういう風にしか思えなかった。

世の中、まだ知らないこと、気付かないことばかりだ。今度の約束が楽しみで、少し怖かった。