食違い

「あ、渋滞」

郊外の家電量販店からの帰路で、向かいの交差点に車が5.6台詰まっている。

「ここは町の中心だから」

誰かがそうつぶやくと車内に笑いが起きた。

実際ここは町の中心である。いや、中心だったというべきか。旧街道が通っており、それに沿って藩主の菩提寺の他寺院が立ち並ぶ。その門前町として、お菓子屋さんの多い商店街があって、そこから少し離れると駅がある。街道・鉄道沿いに町があったのだが、今では活気が減り、車道沿いにその役割を受け渡すという日本中どこにでもある現象がわが町でも起こっていた。

家に帰ると私はすぐに散歩に出た。歩いていると、鍵型道路がある。おやと思うと案内板が立っていた。「食違い」。敵の進行を遅らせたり見通しを悪くしたりする古い町の防備策である。そういえば、幼いころ誰か大人に教えてもらった気がする。

私はこの食違いを作った人を思い、次にこの案内板を設置した人と食違いのことを教えてくれた人のことを思った。近頃、こういう小さい歴史の跡に惹かれるようになってきている。よその町を歩いていても見つけると嬉しい。これを目指して訪れることはないし、金銭的な価値を生み出すことは無に等しいが、それを作った人と、彼らのことを忘れないように努めた人がいたことは何より尊いことに感じる。

どうやら私は家業を継ぐために地元に帰らなければならないらしい。地元にはなにもない。散歩を通じ慣れ親しんだ旧市街を出てそう思った。まだ都市の刺激を感じていたい。

ただ、都市に飽きたら帰ってきてやってもいいかなと思うようになってきた。どこにでもある歴史を残すのは、土地に縁がある人間だろう。せっかくある縁だから、帰ってきたらそういうことがやりたい。