おいしい北海道

眠りから覚めて窓を見下ろすと、広がるのは見たこともない風景だった。茶や緑、黄色の巨大で真っ直ぐなタイルが山と川の間をぎっしり埋め尽くして、それがどこまでも広がっていた。国内旅行に来たはずが、ずいぶんと変わったところにきてしまった。これが北海道。

事前学習にアイヌの本ばかり読んでアイヌに肩入れするようになっていた私にとって、眼下の光景はグロテスクなものに見えた。植物の色をしているとはいえ自然というにはあまりに直線的で人工的だ。アイヌが共存してきた森林を奪い、切り拓いて作った近代構造物。私の目にはそう映った。

しかし、眺めるうちに変わった印象も受けるようになった。この広大な農地を開墾した開拓民の苦労を思い描いた。そして、この農地が育む大量の食料がどれほどの人々の飢えを癒したか考えた。私の北海道旅行はそうして始まった。

1日目は、できたばかりの民族共生象徴空間ウポポイに行った。体験学習はコロナの影響で中止していて、国立アイヌ民族博物館しか見れなかったのだが、本で読んだ資料が生で見れたのはよかった。また行きたい。

2日目は、時計台を見て、北海道博物館に行った。同行者に内村鑑三のオタクがいたので、時計台も楽しく見れた。北海道博物館は北海道の通史やアイヌの歴史、開拓の歴史の展示があった。やはり視覚的な資料があるのはいい。アイヌ関連もウポポイに劣らない。北海道博物館の近くには、北海道中の開拓時代の建造物を移築してある開拓の村という施設があった。閉館30分前に入ったら馬鹿みたいに広くて笑ってしまった。

3日目は小樽に行った。どうせいかにもな観光地でしょと少し舐めてかかっていたのだが、思いのほか歴史的な建物が残っていて驚いた。海も見れてよかった。話しかけられたおじさんによると観光客が全然来てないらしい。

4日目は北大の植物園に行った。北海道の高山植物や北方諸民族が利用していた植物が見れた。

見返してみると、4日間でアイヌと「開拓民」の歴史を行ったり来たりしていた。出かける前は征服者の末裔として土下座行脚でもするつもりだったのだが、海鮮だ羊だセコマのお惣菜だを食べているうちにずいぶんほだされてしまった。

北海道出身の同行者がどこかで、「この開拓がなかったら俺生まれてないんだろうな」ということを言っていた。私だってそうかもしれない。北前船は北陸から出たそうだし、開拓民の3割は北陸出身者らしい。

現在も続くアイヌの苦難を思えば、これでよかったのだとは到底思えない。ただ、自分たちが立っている現状を否定する気にはなれない。どんな経緯にせよみんなそれぞれ自分の人生を生きてしまっているのだ。

ベトナムのフランスパンでできたサンドイッチ・バインミーを思い出す。フランスの植民地支配のことを考えても、やっぱりバインミーはおいしくて、あってよかったと思う。

どうしていいのか分からないけれど、とりあえず自分の立っているところがどうやってできているのか勉強していこうと思う。そして、おいしいものをたくさん食べたい。