弟と映画

最近弟と映画の話をする。うちは頻繁に映画館に映画を見に行ったり、DVDなんかを借りてきたりするような家ではなかったが、大学進学で地元を離れた私たち2人はよく映画を見るようになって、好みも割と似ている。先日も他の家族が寝息を立てている中、なんとなくリビングに居合わせて面白かった映画の話をしていた。それでも、あまり踏み込んだ話はしない。家族に政治的な話や突っ込んだ批評ができないし、しない方がいいと思っている。

家を出てから嘘が増えた。些細なことでも、きっと分かってくれないだろう、何か小うるさいことを言ってくるに違いないと思って誤魔化すようになった。家の外を知らなかった私も家の中とは違う価値観に触れたのだ。

そんな居心地の悪い実家の一員だった弟もしばらくして東京に出た。バイトを始めて、煙草を吸って、本を読んだり映画を見たりするようになった。垢ぬけて、気遣いが増えた。少し大人になった。私が知らないだけで、他にも経験を積んで昔と変わったに違いない。

私は弟に共通の意識を覚えるようになった。家の外を知った者への共感だ。何を知ったのかは知りようもないし、知らなくていい。ただ、弟にも私と同じような家の外での色々ができたのだと思うと嬉しかった。

弟は昼まで寝ている。聞くところだいぶ夜型のようだ。ほかの家族は早く寝て朝早く起きろと責めるのだが、私は口がつぐんでいる。この家の外には夜起きているということがあることを私は知っている。私たちは夜中に起きて映画の話をする。外の世界を家の中でひっそり共有する。

きっと両親も家の外での色々を持っているに違いない。知ってみたいとも思うけど、知らないほうがいいこともあるのかもしれない。これまではそんな色々があることを想像もしなかったけど、みんな一人の人間なのだということがやっと分かってきた。どういう形でかは分からないが、一人の人間としてこの家にちょうどいい居場所をゆっくり見つけていけたらいい。